人間とは、生とは、思考したい人におすすめ中村文則5選
私にとって中村文則は、大好きな作家ですが、万人にはおすすめしずらいなあと思う作家でもあります。というのも中村文則の書く世界観は、暗く重苦しいものが多く、物語の面白さやテーマ性を感じ取る以前に、読んでいるのがしんどい。
ではなぜ私が中村文則作品を推しているのかというと、そんな暗く重苦しい世界観に、「嘘のなさ」を感じるからです。彼の書く文学は嘘っぽくなく、残酷で、だからこそ、人を惹き付けるものがあります。深く哲学的なテーマも多く扱っており、考えるのが面倒な人には向きませんが、好きな人は本当にハマると思います。
そんな、大好きな中村文則作品の中から、比較的初心者向けな5作品をピックアップしていきたいと思います。
1.『銃』
価格:594円 |
雨が降りしきる河原で、大学生の西川が出会った動かなくなっていた男。その傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼は、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが…。
拳銃を拾った大学生の日常が徐々に崩壊していく。中村文則のデビュー作。「銃を拾った」ただそれだけのシチュエーションをここまで面白く書き上げるって、小説家ってすげぇ…。
主人公の心理描写が多く、その描写もリアルを通り越して、実際に中村文則が感じたことを文字に起こしているような緊迫感。(これは中村文則作品すべてに言えるのですが…)
「銃は殺人を行う者が、その殺人を傍観することを可能にする」という記述が印象的でした。
2.『土の中の子供』
価格:539円 |
27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。
あらすじからもわかる通り、とにかく重いです。孤児であった過去や、暴力を受けていた記憶にさいなまれる主人公。正直読むの結構きついし、100頁ちょっとでだいぶ体力削られます。ですがただ、重いだけではなく、暗い過去や記憶と向き合い人生に自分なりの答えを見出してゆくストーリーに心を打たれます。
個人的に今まで読んだ中村文則作品で一番泣ける。
芥川賞受賞作の中では比較的読みやすいほうではあると思うので、芥川賞作品の入門にもおすすめ。
3.『去年の冬、君と別れ』
価格:506円 |
ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。事件の関係者も全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか? それは本当に殺人だったのか? 「僕」が真相に辿り着けないのは必然だった。なぜなら、この事件は実は――。話題騒然のベストセラー、遂に文庫化!
中村文則の書く純文学にはよくミステリっぽい要素が含まれているのですが、本作は特にミステリ色が強い、ってかミステリとしても相当ハイレベルで新しいことやっててすごい。普通にミステリ好きでもこのトリックには唸る。
クリスティの『春にして君と離れ』をパロったタイトルも綺麗で個人的に大好き。
4.『何もかも憂鬱な夜に』
価格:616円 |
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している—。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。
私が、中村文則作品で一番好きな作品。何度読んでも新しい発見があるし、感じ方が変わる。死刑制度というグレーなシステムを題材にしているだけあって、簡単には答えが出ない、というか答えのない物語だと思っています。
作中でよく「駄目になってしまいたくなる」という記述が出てきて、この記述は『土の中の子供』でも似たようなものが出てきます。中村文則がどのようなことを思って書いているのかは分かりませんが、私はこの文にものすごく共感できるところがあり、同じことを思っている人がいることにとても救われました。
本作は中村文則作品の中でも多くの救いが散りばめられていると思います。生きづらさを抱えている人全員に刺さると思います。
5.『迷宮』
価格:506円 |
胎児のように手足を丸め横たわる全裸の女。周囲には赤、白、黄、色鮮やかな無数の折鶴が螺旋を描く―。都内で発生した一家惨殺事件。現場は密室。唯一生き残った少女は、睡眠薬で昏睡状態だった。事件は迷宮入りし「折鶴事件」と呼ばれるようになる。時を経て成長した遺児が深層を口にするとき、深く沈められていたはずの狂気が人を闇に引き摺り込む。善悪が混濁する衝撃の長編。
人間の暗部を書かせたら、中村文則の右に出る作家はいません。この作品は特に人間の悪意や暗部をうまく描いていて、やはり読後感は重い感覚が残ります。
凄惨な事件にもかかわらず「折鶴事件」に魅了されてしまう人々、なぜこんなにもこの事件が人を惹き付けるのか。最後のページのある一文を読んだとき、私はすごく納得したし、同時にものすごい恐怖に襲われました。あらすじにもある通り善悪が混濁する感覚です。
終わりに
以上が中村文則の初心者向けの5選です、これらを読んで中村文則作品になれたら『教団X』というラスボスに挑んでみてください(かくいう私もまだ読めていません)。
初めにも書いた通り中村文則作品いいところは、嘘っぽくないところだと思っています。これがなんというか難しくて、ただリアリティーがあるのとも少し違くて、中村文則自身も魂を削って書いているのが伝わってくるって感じです。
これだけ魂を削って書かれていると。作者の思いもすごく伝わってきて、自分が感じている生きづらさとかって自分だけのものではないんだなと感じることができます。 ネガティブな内容だからこそ救われることもあります。
価格:880円 |
ラスボス。