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人間とは、生とは、思考したい人におすすめ中村文則5選

 私にとって中村文則は、大好きな作家ですが、万人にはおすすめしずらいなあと思う作家でもあります。というのも中村文則の書く世界観は、暗く重苦しいものが多く、物語の面白さやテーマ性を感じ取る以前に、読んでいるのがしんどい。

 ではなぜ私が中村文則作品を推しているのかというと、そんな暗く重苦しい世界観に、「嘘のなさ」を感じるからです。彼の書く文学は嘘っぽくなく、残酷で、だからこそ、人を惹き付けるものがあります。深く哲学的なテーマも多く扱っており、考えるのが面倒な人には向きませんが、好きな人は本当にハマると思います。

 そんな、大好きな中村文則作品の中から、比較的初心者向けな5作品をピックアップしていきたいと思います。

 

1.『銃』

銃 (河出文庫) [ 中村文則 ]

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感想(5件)

 雨が降りしきる河原で、大学生の西川が出会った動かなくなっていた男。その傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼は、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが…。

  拳銃を拾った大学生の日常が徐々に崩壊していく。中村文則のデビュー作。「銃を拾った」ただそれだけのシチュエーションをここまで面白く書き上げるって、小説家ってすげぇ…。

 主人公の心理描写が多く、その描写もリアルを通り越して、実際に中村文則が感じたことを文字に起こしているような緊迫感。(これは中村文則作品すべてに言えるのですが…)

  「銃は殺人を行う者が、その殺人を傍観することを可能にする」という記述が印象的でした。

 

2.『土の中の子供』

土の中の子供 (新潮文庫 新潮文庫) [ 中村 文則 ]

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感想(6件)

 27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。

 あらすじからもわかる通り、とにかく重いです。孤児であった過去や、暴力を受けていた記憶にさいなまれる主人公。正直読むの結構きついし、100頁ちょっとでだいぶ体力削られます。ですがただ、重いだけではなく、暗い過去や記憶と向き合い人生に自分なりの答えを見出してゆくストーリーに心を打たれます。

 個人的に今まで読んだ中村文則作品で一番泣ける。

 芥川賞受賞作の中では比較的読みやすいほうではあると思うので、芥川賞作品の入門にもおすすめ。

 

3.『去年の冬、君と別れ』

去年の冬、きみと別れ (幻冬舎文庫) [ 中村文則 ]

価格:506円
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感想(9件)

 ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。事件の関係者も全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか? それは本当に殺人だったのか? 「僕」が真相に辿り着けないのは必然だった。なぜなら、この事件は実は――。話題騒然のベストセラー、遂に文庫化!

 中村文則の書く純文学にはよくミステリっぽい要素が含まれているのですが、本作は特にミステリ色が強い、ってかミステリとしても相当ハイレベルで新しいことやっててすごい。普通にミステリ好きでもこのトリックには唸る。

 クリスティの『春にして君と離れ』をパロったタイトルも綺麗で個人的に大好き。

 

4.『何もかも憂鬱な夜に』

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫) [ 中村文則 ]

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感想(13件)

 施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している—。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。  

 私が、中村文則作品で一番好きな作品。何度読んでも新しい発見があるし、感じ方が変わる。死刑制度というグレーなシステムを題材にしているだけあって、簡単には答えが出ない、というか答えのない物語だと思っています。

 作中でよく「駄目になってしまいたくなる」という記述が出てきて、この記述は『土の中の子供』でも似たようなものが出てきます。中村文則がどのようなことを思って書いているのかは分かりませんが、私はこの文にものすごく共感できるところがあり、同じことを思っている人がいることにとても救われました。

 本作は中村文則作品の中でも多くの救いが散りばめられていると思います。生きづらさを抱えている人全員に刺さると思います。 

 

5.『迷宮』

迷宮 (新潮文庫) [ 中村文則 ]

価格:506円
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感想(2件)

 胎児のように手足を丸め横たわる全裸の女。周囲には赤、白、黄、色鮮やかな無数の折鶴が螺旋を描く―。都内で発生した一家惨殺事件。現場は密室。唯一生き残った少女は、睡眠薬で昏睡状態だった。事件は迷宮入りし「折鶴事件」と呼ばれるようになる。時を経て成長した遺児が深層を口にするとき、深く沈められていたはずの狂気が人を闇に引き摺り込む。善悪が混濁する衝撃の長編。

 人間の暗部を書かせたら、中村文則の右に出る作家はいません。この作品は特に人間の悪意や暗部をうまく描いていて、やはり読後感は重い感覚が残ります。

 凄惨な事件にもかかわらず「折鶴事件」に魅了されてしまう人々、なぜこんなにもこの事件が人を惹き付けるのか。最後のページのある一文を読んだとき、私はすごく納得したし、同時にものすごい恐怖に襲われました。あらすじにもある通り善悪が混濁する感覚です。

 

終わりに

 以上が中村文則の初心者向けの5選です、これらを読んで中村文則作品になれたら『教団X』というラスボスに挑んでみてください(かくいう私もまだ読めていません)。

 初めにも書いた通り中村文則作品いいところは、嘘っぽくないところだと思っています。これがなんというか難しくて、ただリアリティーがあるのとも少し違くて、中村文則自身も魂を削って書いているのが伝わってくるって感じです。

 これだけ魂を削って書かれていると。作者の思いもすごく伝わってきて、自分が感じている生きづらさとかって自分だけのものではないんだなと感じることができます。 ネガティブな内容だからこそ救われることもあります。

 

教団X (集英社文庫(日本)) [ 中村 文則 ]

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感想(4件)

ラスボス。


 

【綾辻行人のすすめ】 綾辻行人の最強ミステリ・ホラー5選

 

 綾辻行人を布教したい!!!

 

  (開幕からものすごく私事ですが)なんとなく始めたブログの初投稿、正直何を書こうかものすごく悩みますが、やはり敬愛する綾辻行人について語りたいなぁと。

 どのような人にどれだけの人数読まれるのか見当もつきませんが、出来るだけ多くの人に「綾辻作品」を布教していきたい…そんな魂胆で、綾辻作品から私のおすすめを5冊を厳選していきたいと思います。

 

1.『十角館の殺人

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫) [ 綾辻 行人 ]

価格:946円
(2021/8/29 18:24時点)
感想(46件)

  十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!

 

 綾辻行人といえばこれ!って人は多いと思います。館シリーズ1作目であり綾辻行人のデビュー作。

 正直、シリーズで1番面白い!とまではいきませんが、やはりデビュー作なので愛着が…

 孤島にたたずむ怪しげな館、不気味な登場人物、クローズドサークル、血みどろ惨劇、驚きのトリック。まさに王道、本格ミステリお手本のような作品です。分かる人には分かると思いますが、読むときは新装改訂版で読むことをお勧めします。

 

2.『Another』

Another(上) (角川文庫) [ 綾辻 行人 ]

価格:748円
(2021/8/29 18:27時点)
感想(19件)

 

Another(下) (角川文庫) [ 綾辻 行人 ]

価格:748円
(2021/8/29 18:26時点)
感想(25件)

 夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。同級生で不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、謎はいっそう深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木が凄惨な死を遂げた!この世界ではいったい何が起きているのか!?

 

  綾辻行人による本格ミステリ×ゴシックホラーの融合。とにかくプロットがすさまじく良い。読み進めるごとに謎が深まっていき、それでいて伏線回収も完璧。グロテスクな描写も手を抜かず、とにかくバタバタ人が死ぬ。これだけ大量に人が死ねば、一部で「Anotherなら死んでた」なんて言葉が流行ったのも頷ける。

 アニメ化、映画化、コミカライズもしているので見比べてみるのも面白いかも。個人的には小説◎、アニメ〇、映画×でした。   『Another2001』という800頁の鈍器(新作)も出ているのでこの機会にぜひ~。

 

3.『緋色の囁き』

 

緋色の囁き 〈新装改訂版〉 (講談社文庫) [ 綾辻 行人 ]

価格:1,078円
(2021/8/29 18:32時点)
感想(0件)

 「私は魔女なの」謎の言葉を残したまま1人の女生徒が寮の「開かずの間」で焼死した。その夜から次々と起こる級友たちの惨殺事件に名門女学園は恐怖と狂乱に包まれる。創立者の血をひく転校生冴子は心の奥底から湧き起こってくる囁きに自分が殺人鬼ではないかと恐怖におののく。

 

 囁きシリーズ1作目。これもまた本格ミステリ×ゴシックホラーものであり、私が綾辻作品で1番推している作品でもあります。

 とにかく「綾辻らしさ」が前面に押し出された作品。緋色の囁きとあるように、極彩色の緋い世界観で読者を惹き込みます。文章のみでここまで世界の色や匂い、雰囲気を感じ取れる作品はなかなかないと思います。

 この世界観はダリオ・アルジェント監督の映画『サスペリア』から着想を得たらしいです。この映画もチカチカするような、赤や緑の照明を多用して独特な世界観を作り上げています。

 もちろん雰囲気だけではなく、しっかりと読者をミスリードし、ラストも衝撃的。綾辻の魅力が詰まった1作です。

 

          綾辻

                     読め……

     マジで…

              行人……

                        読め…

 

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感想(0件)

 こちらも面白いのでホラー映画好きはぜひ。

 

4.『殺人鬼』

殺人鬼 --覚醒篇 (角川文庫) [ 綾辻 行人 ]

価格:748円
(2021/8/29 18:38時点)
感想(0件)

 

殺人鬼 --逆襲篇 (角川文庫) [ 綾辻 行人 ]

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(2021/8/29 18:38時点)
感想(2件)

 90年代のある夏、双葉山に集った〈TCメンバーズ〉の一行は、突如出現した殺人鬼により、一人、また一人と惨殺されてゆく……いつ果てるとも知れない地獄の饗宴。その奥底に仕込まれた驚愕の仕掛けとは?

 

 この作品はめちゃめちゃ読む人を選びます。綾辻行人による容赦なしのスプラッタホラー。私はある程度ゴア描写に慣れているので面白く読めましたが。苦手な人は正直読むのはおすすめしません。

 双葉山に上登っていた一行が、突如現れた謎の殺人鬼に次々と惨殺されていく。殺人描写は嫌悪感MAXで、ジェイソンやマイケル・マイヤーズを彷彿とさせる殺人鬼のキャラクター性には舌を巻きます。そしてやはり、綾辻らしいちょっとした悪戯心もあり、読む人を選ぶ分、好きな人は相当はまる作品なんじゃないかと思います。

 余談ですが、私が初めて読んだ綾辻作品がこの殺人鬼で、薦めて来たのは母親。狂ってる… 

 

5.『殺人方程式 切断された死体の問題』

殺人方程式 切断された死体の問題 (講談社文庫) [ 綾辻 行人 ]

価格:880円
(2021/8/29 18:40時点)
感想(5件)

 新興宗教団体の教主が殺された。儀式のために籠もっていた神殿から姿を消し、頭部と左腕を切断された死体となって発見されたのだ。厳重な監視の目をかいくぐり、いかにして不可能犯罪は行われたのか。2ヵ月前、前教主が遂げた奇怪な死との関連は? 真っ向勝負で読者に挑戦する、本格ミステリ会心作!

 

 これを初めて読んだとき、綾辻はこんなこともできるのか!!と興奮しました。本作を読むまで、綾辻といえば叙述トリックが得意で、物理トリックはそんなに好きじゃないようなイメージがありましたが、そんなことないです。物理トリックも超ハイレベル。やはり綾辻行人に書けないミステリはないのか…。

 「読者への挑戦」がある本作、メモを取り、推理しながら読んでください。なぜ犯人は死体をバラバラにしたのか、ありそうでなかった理由にものすごく納得させられ、そこから導き出される真相はマジで衝撃的です。まさに殺人方程式。

 

終わりに 

 こんな駄文を最後まで読んでくれる人がいるのかわからないですが、読んでいただきありがとうございます。

 綾辻行人は私が読書にハマるきっかけとなった作家であり、ミステリというジャンルの奥深さや素晴らしさを教えてくれた作家です。綾辻作品に出逢わなければ他のミステリ・ホラー作品(小説に限らず)に触れることはなかっただろうし、私の世界は狭いままだったと思います。

 読書体験の素晴らしさというのは、日常とかけ離れた世界を感じ取れるというのが一因としてあると思いますが。こと綾辻作品において、綾辻独特のグルーヴ感(音楽以外でこの表現を使うのは変かもしれませんが…)で幻想的な非日常世界を魅せてくれる所が、私を含め多くの読者を虜にする要因だと思います。

 長々と語ってしまいましたが、これを読んで綾辻作品に興味を持ってくれたら本当に嬉しく思います。